今回は「速読って結局のところ本当に読めてるの?」っていう、みんなが気になるテーマについて、ちょっと深掘りして説明させてもらいます。

読む速さと理解度の関係や、速読で本当に読めてる人についても解説するよ!
速読は「深い理解」で本当に読めてるとは限らない

いきなり核心から入りますが、 「速読」というのは、必ずしも「深く理解しながら読めている」ことを意味しません。
もちろん、情報収集や概要把握など、速読が非常に役立つ場面はたくさんあります。でも、小説の登場人物の心情を深く読み取って感動したりするような、いわゆる「深い読解」が必要な時には、速読はあまり向いていない、というのが科学的な見解なんです。
読むスピードを上げることで、脳が情報を処理しきれずに、結果的に理解度が低下してしまうケースが多いんです。じゃあ、なんでそう言えるのか、もう少し詳しく見ていきましょう!
速読で本当に読めてる人については記事中盤から解説します。
「読む速度が上がると理解度が低下する」という研究結果

「速く読めば読むほど、理解度が落ちる」っていう話は、実は科学的な研究によって繰り返し示されていることなんです。
多くの研究で、読むスピードと理解度には「トレードオフ」の関係があることが分かっています。つまり、どちらかを高めようとすると、もう一方が犠牲になる可能性がある、ということですね。
原文:“The research shows that there is a trade‑off between speed and accuracy. It is unlikely that readers will be able to double or triple their reading speeds (e.g., from around 250 to 500–750 words per minute) while still being able to understand the text as well as if they read at normal speed.”
和訳:「研究によれば、読む速度と正確さ(理解度)にはトレードオフがある。たとえば、読む速度を約250語/分から500~750語/分に倍増または三倍にしても、通常の速さで読んだときと同じように内容を理解できる可能性は低い。」
引用:研究論文『So Much to Read, So Little Time: How Do We Read, and Can Speed Reading Help?』
「自分は速読で本当に読めている!」という人は、この速度と理解度のバランスが良い人が多いです。
また、私たちが文章を読むとき、脳は単に文字を認識するだけではありません。

まず、目で文字を捉え(知覚)、次にその文字がどのような単語であるかを認識し(単語認識)、その単語の意味を理解します(意味理解)。
さらに、単語同士の関係性から文の意味を構築し、複数の文から段落、そして文章全体の論理的な繋がりや構造を把握します(文法・構文理解、談話理解)。そして最終的には、筆者の意図や全体的なメッセージを推測し、自分の持っている知識と結びつけて、内容を深く理解していくんです。
この一連の認知プロセスは、非常に複雑で、それぞれの段階で脳は多くの情報処理を行っています。

例えるなら、料理を作るようなものです。
材料(文字)を素早く集めてくる(速読)のは得意でも、その材料を適切に下処理し、調味料を加え、じっくり煮込む(意味理解、文脈把握、思考)時間がないと、美味しい料理(深い理解)はできませんよね。
読むスピードを上げようとすると、これらの認知プロセスに十分な時間を割くことが難しくなります。
特に、熟読が必要な学術論文や、複雑な内容の文章、あるいは哲学書や文学作品など、筆者の思考のプロセスや表現のニュアンスを深く読み取る必要がある場合には、その傾向が顕著に出ます。
速く読もうとすればするほど、キーワードや全体の流れは追えても、細かな論理の繋がりや、行間に込められた意味、筆者の意図といった深い部分が読み取れなくなってしまうんです。
これは、脳が適切に情報を処理し、記憶に定着させるには、ある程度の「時間的余裕」と「精神的エネルギー」が必要だからなんです。これでは、本当の意味で読めてるとは言えないでしょう。
速く読むこと自体は、あくまで「文字を目で追うスピード」であって、「脳が内容を理解し、吸収するスピード」とは必ずしも一致しない、という点が、多くの研究で繰り返し指摘されています。
速読の限界を示す研究論文

ここまで「読む速度が上がると理解度が低下する」という話をしてきましたが、この見解は、決して感覚的なものではなく、長年の科学的な研究によって裏付けられているんです。
特に、読解研究の第一人者である、カリフォルニア大学サンディエゴ校の心理学者、キース・レイナー博士らの研究は、速読が本当に読めているのか?その限界を明確に示しています。
レイナー博士は、長年にわたり読解の科学的な研究を行っており、特に人間の目の動きと読解の関係について深く分析してきました。
彼は、人々が本当に「速く読んで理解する」ことができるのかどうかを検証するために、非常に厳密な実験を多数行っています。その結果、一貫して「読む速度が上がると、理解度が低下する」という結論に達しているんです。
彼の論文の一つで、読解のメカニズムを詳細に解説した以下の論文から、重要な部分を引用してみましょう。
原文:“According to the literature (see Rayner et al., 2016 for review), increasing reading time constraints should reduce text comprehension… Shorter reading times should induce a reduction in mean fixation duration and an increase in saccade amplitude”
和訳:「文献によれば(2016年のレビューも参照)、読書時間の制限が強まるほど、テキストの理解度は低下する…読書時間が短くなると、平均固視時間は減少し、サッケード幅が増大する傾向がある」
引用:研究論文『Eye movements, the perceptual span, and reading speed』
レイナー博士らの研究は、私たちが文章を読む際の目の動き(サッケードと固視)や、脳内での情報処理のプロセスを詳細に分析することで、この結論に至っています。
彼らの研究によれば、私たちは文章を読む際、目が文字の上を滑らかに動いているわけではなく、短い間隔でピタッと止まり(固視)、その瞬間に文字から情報を取り込んでいます。
この固視の時間が短すぎたり、サッケード(次の固視点への目の移動)の幅が広すぎたりすると、脳が情報を十分に処理できず、理解度が低下してしまうことが示されているんです。
つまり、速読のテクニックによって、たしかに目の動きを速くすることはできるかもしれません。しかし、それはあくまで「文字を目で追う」という物理的なスピードに過ぎないという結果でした。
その情報が脳内で「意味を持つ情報」として処理され、既存の知識と結びつき、深い理解へと繋がるには、やはりある程度の時間と、脳が情報を整理・統合するためのプロセスが必要だとのことです。
この科学的な裏付けは、「本当に読めてる=深く理解できてる」という一般的な誤解を解き、速読の本当の限界を私たちに教えてくれます。
速読で本当に読めてる人がいる4つの理由
ここまでの話を聞くと、「速読って結局のところ、深い理解には向かないんだな」「速読で本当に読めてる人なんて存在しなかったのか」と感じるかもしれません。確かに、多くの研究が速度と理解度のトレードオフ関係を示しています。
しかし、中には、速読で本当に読めてる人がいる事や、鍛えれば速読でも一定の理解度を維持できるという視点も存在します。
これは、人間の脳の持つ驚くべき可能性や、まだ解明されていない認知のメカニズムを考慮すると、全くのゼロではないという見方もできるんです。
本当に読めてる人がいる理由①脳の適応能力と処理能力
速読で本当に読めてる人がいる可能性がある根拠は、私たちの脳にあります。私たち人間の脳には、驚くべき適応能力と処理能力が秘められているからです。
その一例として「フラッシュ暗算」を考えてみましょう。
モニターに表示される数字の羅列を、わずか数秒で全て足し合わせ、瞬時に正確な答えを導き出すフラッシュ暗算の達人たちを見ると、まるで人間の能力の限界を超えているように感じますよね。
例えば、珠算式暗算という手法では、数字を単なる記号としてではなく、頭の中で「そろばんの珠」として映像化し、右脳を駆使して高速に処理しています。
そろばんの玉をイメージ化して、頭の中に浮かべます。そして、それを実際のそろばんと同じように動かして計算をするのです。
引用:日本フラッシュ暗算協会
この玉をイメージする場所は、右脳の後頭部のところにつくられます。
もし、文字情報の処理においても、フラッシュ暗算のように「意味を直感的に映像として捉える」ような高度な脳の使い方を訓練によって習得できれば、速読で速さと理解度を両立できる可能性も、一部の訓練された人においては存在するのかもしれません。
これは、通常の逐次的な文字認識とは異なる、より高次元の情報処理能力が関わってくる領域だと言えるでしょう。
本当に読めてる人がいる理由②映像記憶の存在

速読で本当に読めてる人がいる可能性の1つとして「映像記憶」という能力が挙げられます。
この能力は、まるでカメラで写真を撮るように、一度見たものを細部まで正確に記憶できる能力を指します。このような能力を持つ人がいるという報告は昔からありますが、そのメカニズムは未だに脳科学で完全に解明されているわけではありません。
彼らにとっての読書は、通常の私たちとは全く異なる体験をしているのかもしれません。文字の羅列を一つずつ認識するのではなく、ページ全体の情報を「一瞬のイメージ」として脳に取り込み、そこから必要な情報を引き出している可能性も考えられます。
現在の脳科学では未解明な部分が多いこの能力ですが、その存在自体が、私たちの脳が持つ潜在的な可能性を示唆していると言えるでしょう。
速読の中には、この瞬間記憶のような、視覚情報を高速かつ網羅的に処理する能力の獲得を目指すものもあり、それが一部の達人レベルの速読者の理解度を支えている可能性も否定できません。
本当に読めてる人がいる理由③日本語での研究が少ない

これまで引用してきた多くの読解研究は、英語を対象としたものが主流です。しかし、言語によってその構造や文字の種類は大きく異なります。
例えば、英語はアルファベットという表音文字が中心ですが、日本語は「ひらがな」「カタカナ」という表音文字に加えて、「漢字」という表意文字も使用します。漢字は一文字で意味を持つため、英語とは異なる脳の処理が関わっている可能性があります。
特定の速読メソッドについて、日本国内の大学と共同で脳活動を分析した研究事例も一部にはありますが、全体的な研究の蓄積、本当に読めてる人がいるのか?という点では、まだ発展途上だと言えるでしょう。
そのため、英語圏の研究結果が、そのまま日本語の速読に当てはまるのかどうかは、さらなる日本語に特化した研究によって検証される必要があります。
言語特性が脳の情報処理に与える影響は大きく、今後の研究次第では、日本語独自の速読と理解度の両立モデルが明らかになる可能性も秘めているんです。
本当に読めてる人がいる理由④速読は脳を活性化させる

脳科学の研究では、fMRI(機能的磁気共鳴画像法)などの技術を用いて、特定の活動を行っている際に脳のどの部分が活性化するかを調べることができます。実際に、速読を行っている最中に、脳の特定の領域が通常よりも活発になることが報告されています。
原文:“Our activation analyses revealed significant changes in occipital and temporal regions as reading speed increased, indicating functional connectivity within the occipitotemporal network.”
和訳:「私たちの活性化解析では、読む速度が高まるにつれて後頭葉および側頭葉領域に有意な変化が認められ、これは後頭側頭ネットワーク内で機能的結合が起きていることを示しています。」
引用:研究論文『The Role of Occipitotemporal Network for Speed-Reading: An fMRI Study』
そして、私たちの脳には「脳の可塑性(かそせい)」という素晴らしい性質があります。これは、経験や学習によって脳の構造や機能が変化し、新たな神経回路を形成したり、既存の回路を強化したりする能力のことです。
例えば、脳梗塞で指を動かす神経細胞が死んでしまったとします。指を動かす神経細胞が死んでも、リハビリによって通常なら「手首」を動かす指令を出す神経細胞が「指」を動かす指令を出すことができるようになるのです。これは脳の可塑性と呼ばれる現象です。
引用:脳梗塞リハビリステーション名古屋
速読トレーニングを継続的に行うことで、読書に関わる脳の領域が鍛えられ、情報処理の効率が上がることで、理解度を落とすことなく読める可能性があります。
もちろん、どの程度の速度で、どの程度の理解度を維持できるのか、その限界は個々人で大きく異なるでしょう。しかし、脳の可塑性という観点から見れば、熟練した速読者が、訓練によって脳の効率的な情報処理能力を獲得し、ある程度の理解度を伴って高速に読むことが可能になる、という可能性は十分に考えられるんです。
まとめ
ここまで「速読は本当に読めているのか?」という問いに対して、科学的な研究結果を交えながら説明させてもらいました。
結論として、「速読は、必ずしも『深い理解』を伴うものではない」 と言えるでしょう。
多くの科学的な研究、特に読解研究の第一人者であるキース・レイナー博士らの研究が示すように、「読む速度が上がると、理解度が低下する」 というトレードオフの関係が、人間の知覚および認知システムの限界によって存在します。
私たちの脳は、極めて高速な速度で情報を処理するように設計されていないため、無理にスピードを上げようとすると、情報が十分に処理されず、結果的に深い理解や記憶への定着が難しくなってしまうんです。
もちろん、速読のテクニックが全く役に立たないわけではありません。
大量の情報の中から要点や概要を素早く掴む、あるいは特定の情報だけを探し出すといった「情報収集」や「効率的なスクリーニング」が目的であれば、速読は非常に有効なツールとなります。新聞を流し読みしたり、仕事のメールの山を捌いたりする際には、その恩恵を大いに受けることができるでしょう。
また、フラッシュ暗算のような特定の訓練で脳の処理能力が向上する例や、未解明な「映像記憶」の存在、そして脳の「可塑性」によって読む能力も鍛えられる可能性も指摘されています。
日本語に特化した速読研究はまだ少ないものの、今後の研究で、特定の訓練を積んだ個人において、ある程度の理解度を維持しながら高速で文章を処理できるメカニズムが解明される可能性もゼロではありません。
コメント